<< 女衒に売られると奴隷 わたしとまわりと奴隷たち >>

名医はいずこに

階段の前で待っていると、先生と共に、いつものじいさんがやってくる。
だらしない白髪に汚らしいジャージ、通勤電車でこんなのが隣に乗ってきたら、即移動を決め込むだろう。
じいさんは、ゆっくりと重たい扉を開け、ほほ笑むと、私にどうぞとジェスチャーする。
できるだけ礼儀正しくありがとうございますといい、中に入る。
じいさんは数分かけて靴を脱ぐ。
先に入った私は
「まだ治らないんだ、もう年なんだね。これ乗り越えたらまた元気になるんだよー。」
という言葉に、
「えー、じゃあ次は更年期まで元気ってこと?」
なんて軽口を叩く。
腰をまげて、体の曲がり具合を見てもらうと
「C型の湾曲がまたでてるねー、前は一回矯正したら2ヶ月くらい大丈夫だったじゃない。」
と言われ、
「ぎっくり腰やってから首とかいろんなとこも悪くなっちゃって。」
と答える自分がばあさんみたいに思えた。

先ほどのじいさんは、やや遅れて隣のベッドに寝転ぶ。ほとんどしゃべるところは見たことないが、
毎週日曜日きっちりにやってくるところを見るに、ここが好きなようだ。
じいさんはとっても太っているし、体がすごく硬いので、あんまり激しい整体をされないが、
私はボキバキと容赦なくあちこちひっぱったりひねったりされる。
電気をじりじり当てられている間、先生たち二人が
「そういえば○○君、大丈夫かなぁ、お母さんが息切れがすごいって言ってたけど。」
などと話しながら、件の○○君に電話をかける。
「うん、うん、そうなんだ。大変だなぁ、どこの病院?すぐに落ち着くといいなぁ。」
なんて返事してる。先生も70代と、お世辞にも若いとは言えないので、電話の向こうの声が
まる聞こえになるくらいボリュームを上げている。

いろんなひとが、この整体院にやってくる。みんな大体薄汚くて、うだつがあがらないタイプ。
鍼灸師の女性の先生に、悩みを話したり、先生にどこそこが良くならなくて、とか仕事が忙しすぎて
なんて話をして、治療を受けて帰って行く。

患者同士で会話をすることはめったにないが、あまりにも面白い話をしていると、先生を介して
会話に加わるといったこともある。ただでさえ女性の患者が少ない上に、私は平均の半分くらい
の年齢だから、みんな
「なんでこのガキんちょ、ここに来てるんだろ?」
ってな顔で最初は警戒する。
清潔でいいにおいがするっていう診療所じゃないし、先生も孫がいるような年齢なので、30、40代
の女性が来るわけないと思うのだろう。

先生二人は、もちろん腕のいい整体師だから私は通っているわけなのだが、長くなるとだんだん
自分のちょっとした悩みとか、地域のこととか、昔の知恵とか、他愛のない話をするようになる。
先生から帰ってくる返答は、特別なものじゃないんだけど、とても落ち着き、安心できる。
近所のおばちゃんとおじちゃんの家に遊びに来て、好き勝手なことしゃべっている、あの懐かしい
感覚だ。

今日は、運動しているくせに、大臀筋が弱ってるからと言われ、尻から腰にかけてバッテンに
太いテーピングを貼られた。
さすがに女性の先生がやってくれるが、この年で尻丸出しって子供みたいだなぁ。

となりのじいさんは、気持ち良さそうにいびきをかいていた。
心穏やかに長生きしてほしいと思った。
[PR]
by yahji_sali83 | 2011-02-06 21:20 | ひまとゆとり
<< 女衒に売られると奴隷 わたしとまわりと奴隷たち >>